最高裁判所第一小法廷 昭和47年(オ)1293号 判決 1973年10月04日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人旅河正美、同下井善広、同小宮清の上告理由について。
原審の適法に確定したところによれば、所論の確定判決の訴訟物は、本件係争地について上告人が通行権を主張したのに対処するため、被上告人が上告人を相手方として本件係争地通行禁止等の仮処分の申請を余儀なくされたことによつて被つた弁護士費用など不法行為に基づく損害賠償請求権の存否であるところ、右確定判決は、その理由において上告人が本件係争地を通行する権利を有することを認め、上告人の通行権の主張は違法とはいえないと説示し、被上告人の損害賠償請求は棄却されるべきものであると判断した、というのである。
民訴法一九九条一項によれば、判決の既判力は主文に包含される訴訟物とされた法律関係の存否に関する判断だけについて生じ、その前提たる法律事実に関する認定その他理由中の判断に包含されるにとどまるものは、たとえそれが法律関係の存否に関するものであつても、同条二項のような特別の規定のある場合を除いて、既判力を有するものではない。所論のように、当事者がその訴訟において争点として主張、立証を尽くし、裁判所が右争点について実質的審理を遂げている場合にあつても、右法理に変りはなく、所論の既判力類似の効力もまた認められないと解するのが相当である。そうだとすれば、上告人が本件係争地の通行権を有するとは認められないから、被上告人のした前記仮処分等が違法なものとはいえない、とした原審の認定判断の過程に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫)
裁判長裁判官大隅健一郎は海外出張中につき署名押印することができない。
(裁判官 藤林益三)